熱力学第一法則に比べて、第二法則がわかりにくいのは「これぞ第二法則ですと言った明確な式」で表されず、トムソンの原理とかクラジウスの原理と称される文章で表現されるためである。トムソンの原理は「周囲環境に影響を及ぼすことなく、一定温度の熱源からの熱量をすべて仕事に変換する熱機関はない」、クラジウスの原理は「周囲に何ら影響を及ぼすことなく、低温の物体から高温の物体に熱エネルギーを移動させる装置はない」といった、いったい何を言っている原理?なのだろうと「もやっ」とした気分にさせられるものである。
ここに乾電池があるとしよう。電池は電気エネルギーを蓄えたものである。エネルギーがあるということは仕事ができる能力を持っているということである。乾電池だけあっても仕事を取り出すことはできなく、プラス極から電線でモーターにつないで、そのモーターからマイナス極につないで初めてモーターが回って仕事ができるようになる。電位の高いプラス極から電位の低いマイナス極に向かって電流を流すことによってその中間にあるモータを回せるのである。モーターを回した後も電気はマイナス極へと流れる。エネルギーを仕事に換えるためにはエネルギーを移動させないといけないのである。電流を流すのは単に電線で電位差のある所をつなぐだけである。この電位差を温度差に対応付けて言えば、高温の物体と低温の物体を接触させると勝手に高温側から低温側に熱エネルギーが移動するのである。この移動する熱エネルギーの量を熱量と呼んでいる。高温側から低温側に熱エネルギーが移動して高温側の温度が下がり低温側の温度は上がるという事を、「経験的」に知っている。つまり高温側から低温側に自然に熱エネルギーが移動するのは自然に起こるのである。高い位置にある水が低い方へ自然に流れるということもこれと同じである。ここで、温度の差 ΔT=TH-TL でどのくらいの量の熱エネルギーがあるか(熱量 Q )は次式で表される。
Q=mcΔT
ここに、m. c は熱源の質量 [kg]と比熱 [J/(kg・K)] である。熱エネルギーの流れる方向は高温源から低温源である。この式で表しているのは一つの熱源 (物体)の温度変化による熱エネルギー変化である。この物体が高温 TH の時に持っている熱エネルギーはQH=mcTHであり、低温時の熱エネルギー QL=mcTL である。これらを熱容量という。したがって、この温度変化を受けると熱容量の変化は QH-QL=mcΔT=Q ということになる。これはあくまでもこの温度差でこの物体が持ち得る熱エネルギーであり、能力である。先の乾電池と同じである。この熱源を使って、仕事をさせるために高温源の物体をエンジンにつなぎ、エンジンから低温源の物体につなぐことによってはじめて、エンジンから仕事を取り出せるのである。つまり熱エネルギーを流すためには高温源と低温源の二つが必要だという事である。低温源というのは周囲環境になるので、エンジンで仕事を取り出すために周囲環境に排熱されることになる。したがって環境に影響が及ぶという事になるのである。
エンジンの場合、高温源が燃焼ガス、低温源が周囲環境(大気や海)である。熱エネルギーを流すためには必ず低温源が必要だという事である。トムソンの原理でいうところの高温源だけでは仕事が取り出せないという事である。低温源に熱エネルギーを流すためには高温源の熱エネルギーを仕事に全部使ってはいけないことになる。必ず低温源に流れるようにしないと熱エネルギーは流れないからである。したがって、低熱源である周囲環境に熱エネルギーが流れ込むので周囲環境に影響が及ぶ(温度が上昇する)と言っているのである。クラジウスは自然には低温源から高温源へは熱エネルギーは流れないという自然の経験則を言っているのである。低温源から高温源へ熱エネルギーを逆流させようとするには何らかの仕事をしないといけないと言っているのである。たとえば、低い位置にある水を高い位置に移動させるにはポンプを使わなければならないのと同じである。