車であるから当然空気の流れを扱う。空気だからといっても特別ではなく、水の流れと同じである。とは言え、見た目も、触れた?感覚も違うし、空気入れで空気を入れる時感じるように空気は圧縮できるが、水は力を加えても容易に縮まないことも知っている。これほど違うのに、同じというのはおかしいのではないか?と頭の隅では疑っている。それは熱力学で扱う空気は状態方程式に則り圧力 p 、温度 T 、体積 V の間には pV=nRT という関係で結ばれているので、温度が異なれば容易に他の状態量も変化してしまうということがあるからである。また、空気入れで感じるように圧力を加えればそれに反比例して体積が縮むということを表しているからである。
ところが、流体工学、流体力学では温度の変化は考えない(したがって密度の変化も考えない)、マッハ数(風速と音速の比)が0.3より小さい場合(風速100 m/s 以下)は縮むということを考えない(非圧縮性)こととしているので、水と同じ性質となるのである。流体力学に至っては、粘性も考えないので、これを非粘性流体という、摩擦損失も考えないのである。実はベルヌーイの式はこの摩擦損失なしの場合の式である。また、圧力項で表される部分は熱を考えない仕事による内部エネルギー変化を表している。
さて、車周りの流れを見てみよう。車が止まっていて、そこに車速と同じ風速の風が吹いている場合と、静止している空気中をその車速で走る場合は、相対的に同じだとして扱う。勿論タイヤが回転しているのか、止まっているのかでその辺りは違いが出るので、気になる場合には走行ベルトの上に車を置いてタイヤを回転させて試験することもある。車に近づいてきた流れは車の先頭部分(グリル)に当たり(よどみ流れ)、そこから上下左右に分かれて(分岐流れ)、表面に沿って流れていき(境界層流れ)、後部で流れは車の表面から剥がれて(剥離流れ)渦を巻く(後流)。ドアミラからも剥がれた流れが小さな渦を放出している。境界層流れ、剥離流れ、後流などはどれも粘性を考慮しないと扱えないので流体工学では粘性を考慮した実在流体を扱うことになる。ちなみに、粘性を考慮しない流体を理想流体と呼んでいる。
車の空気抵抗は、前方部分にかかる圧力による力と後方部分にかかる圧力による力の差が圧力抵抗(形状抵抗)と、壁面に沿う流れの摩擦抵抗の和である。全体抵抗に対する両抵抗の比率は圧力抵抗80%、摩擦抵抗20%である。圧力抵抗は車の形状に大きく左右され、特に後方部分の形状の影響は大きい。したがって、低抵抗の車の形状は流線形に近くなるのである。車の形状設計に流体工学が大いに役立つのである。